恐竜博2016 記念講演から カリー博士

“恐竜州立公園から産出したカスモサウルスとサウロルニトレステス”

 

 (恐竜州立公園の写真説明から)百年くらいにわたり、多くの人がここで恐竜を発掘し、1千体以上の骨格が発見されている。しかし、そのほとんど全てが大型恐竜の骨格だった。大型種の子供や小型種はあまり発見されていない。小さい骨格をずっと発見しようと努力しても、なかなか赤ちゃんは発見できなかった。その理由の一つとしてかれらは別の場所で繁殖し、こちらに移動したという意見もある。そういう行動をとる恐竜もいただろう。しかし、ここに40種以上もいた恐竜全てがそういう行動をしたとも考えにくい。

 

 骨格を見つけることができないとわかったので、そこで、バラバラになった歯や骨を見つけようとした。そして、赤ちゃん、小さい恐竜のバラバラな骨は沢山見つかった。が、赤ちゃんの骨格は見つからない。その理由は、1この地域に沢山いたティラノサウルスに食べられたのかもしれない。2小さいので骨がバラバラになって川に流されてしまったのではないかとも言われている。  バラバラになった骨を探すのに加え、別の方法で探し始めた。

 

(ボーンベッドの写真)恐竜公園にボーンベッドは沢山ある。骨格よりバラバラな骨が集まっているボーンベッドの方が沢山あると思う。骨格は見つからない。数千もの様々な骨が混ざって見つかる。 (集団で並んでしゃがみ、骨を探す写真)恐竜公園で、この写真にあるように、人が集まって地面を這ってで骨を見つけようとしている。その集団の手前、茶色の破片が骨で、歩くと恐竜の骨にぶつかる場所が沢山ある。

 

 恐竜公園のほとんどのボーンベッドでは、いろいろな種類の動物の骨が見つかる。ただ、ボーンベッドの中の5%では一種のみの骨が圧倒的に多いところがある。写真のボーンベッドでは、角竜の骨が圧倒的に多く見つかる。表面の細かい壊れた骨を除いて、岩の下を見ていくと、圧倒的に一種の恐竜が亡くなったとわかる。ここでは多くの角竜が発見されているが、その中には大人もいれば赤ちゃんもいる。一種のみのボーンベッドの多くで赤ちゃんも大人も見つかる。一種類の恐竜が多く見つかるということは、その種類の恐竜は群れで行動していて、同じ場所で同時に死んだということだ。なぜ群れで行動したかという生物学的、地質学的説明は長々とはしないが、7200万年前にこの地域で生息していた恐竜は、少なくとも1年に1回、群れで移動していたと思われる。 こちらのボーンベッドは70個体が発見された。恐竜公園別のボーンベッドでは角竜が1千体も発見されている。このように、骨格を調べたり、バラバラになった骨やボーンベッドを長い間調べてきた。

 しかし、ボーンベッドに力を入れて、恐竜特に赤ちゃんの発見をしようとしていた。2010年5月19日朝、私は恐竜公園の山麓を歩いていて、(写真左側に出ている白い)骨を発見した。それは角竜のフリルの後側のようにもカメの甲のようにも見えたので、角竜であってほしいと願いながら、その日午前中いっぱい発掘して、最終的に頭骨全体を見ることができた。これは角竜の赤ちゃんだと思ったので、私の人生でも最も面白い瞬間だったと思う。写真のハンマーは長さ約30㎝なので、いかに小さいかがわかると思う。昼にキャンプに戻り、仲間を連れ作業を続けたが、数週間かかり、最終的に頭だけでないことがわかった。

(写真を示し)左側の人はクライブ・コイという同僚だが、彼は標本のクリーニングをしていて、後で彼も話す機会があるかもしれない。発掘時にマップ(産状図)を作り、骨がどういう位置にあるかわかるようにする。

 

 頭骨は崖の端で発見された。この地域の岩は柔らかいので、1年に1㎝位浸食される。頭骨が浸食されるぎりぎりで見つかった。(図の)真ん中の濃いグレーの丸い部分は既に浸食されたところで、その位置にあった恐竜の前足は既に失われている。崖の端と真ん中のグレーの部分の間に化石があったので、このタイミングで発見されたことは、とてもラッキーだった。 私たちが骨格を回収する時は、ひっくり返して扱う。(写真に)見えているのは、地面の中にあった方。クライブは、クリーニングでも非常に細かい作業ができる。今回も(科博で)細かい作業をしている。この標本について、彼は、体の下の部分の表面が皮膚で覆われていると気づいた前足以外は完全で皮膚さえ残っていた標本。私たちは北米で数千の角竜を集めたが、これが最も小さく最も完全な標本。(生体復元図 スクプレニク) この図は、再現した図だが色以外はかなり完全と自負している。最近は骨格から色も再現できる可能性がでてきた。

 

 私の前に話されたファーキ博士の例にもあったように、子どもや赤ちゃんは、大人とかなり姿が違うとわかってきた。人間でも成長につれ、プロポーションの割合が違ってくる。眉から顎まで見ると、(カリー博士の息子と孫の横顔が同縮尺で向かい合った写真)孫は息子より目が大きく鼻が小さいとわかる。体全体についてもプロポーションが違うと示している。(カスモサウルスの赤ちゃんと大人の頭骨の比較図)かなり見た目が違うとわかる。例えば、赤ちゃんの方が目が大きい、フリルは小さい。この標本の研究をする前に既に赤ちゃんのこういう情報がわかっていたので、カスモサウルスとわかるが、でないと違う種類の恐竜となったかもしれない。 さらに、このような恐竜は群れで生活していたこともわかっている。フリルや角はティーンエージャーの頃、成長につれ出てくるとわかってきた。それは大人になって生殖する年齢の時に互いを区別する手段として使われたと思われる。なぜ群れで移動するのかは、おそらく捕食者から身を守るためと思われる。

捕食者 サウロルニトレステス

 

では、捕食者の方についても少しだけお話しをする。(骨格写真)この骨格写真は複数個体の骨を合わせている。犬より小さいくらい小型だったので今まで十分に知られていなかった。2014年にクライブ・コイがこの標本(UALVP55700)を発見した。これだけ完璧なサウロルニトレステス骨格が発見されたのは初めてのこと。 様々な事が現在既にわかっている。例えば、この恐竜はモンゴルのヴェロキラプトルに近縁。ただ、良い頭骨標本が今までなかったので、どれだけ近い種かわからなかった。

 

(上がヴェロキラプトル、下がサウロルニトレステス頭骨の写真)鼻孔の形や穴の位置が違うが、近縁種とわかる。歯からこれは例えば角竜の赤ちゃんを食べるような肉食とわかる。ただ、もっと強い武器を持っていた。(後ろ足の写真。ケラチン質のわかる後ろ足末節骨もある)鋭い爪がある。ネコが後ろ足の爪を出すときに後足を上げるが、同様に攻撃する時に後ろ足を上げたのではないかと思われる。例えばこの赤ちゃん角竜を捕まえるときにこの爪を使ったのでないかと思われる。 百年にわたってこの場所で何百何千回という発見があったが、その中でも赤ちゃんあるいは小さい恐竜はなかなか発見されない。しかし、よく見て、幸運であれば恐竜公園だけでなく世界中でこのような発見ができると思う。ご清聴ありがとうございました。

リンク

恐竜パンテオン本サイト

 

グラファイトダイナソー

 山本聖士さんのサイト

 

「恐竜漫画描いてます」

 所 十三さんのブログ

 

半紙半生

 森本はつえさんのサイト